第9章 ドストエフスキーの小説があなたの世界を変える 


 ドストエフスキーは、ひとつのストーリィを物語っているわけでも、人間の類型的な性格のひとつを紹介しているわけでもない。彼はいわば、精神の渦とも言うべき運動に読む者を巻き込んでいくのだ。
 そして、本を閉じた時、確かに世界が変わったのだと、あなたは感じることだろう。
 世界というものは、外側から変わることばかりではないのだ。
 あなたの内側がはっきりと変わってしまい、だから世界も昨日と同じなのではない。そんなふうに、実感することだってある。
 それこそが、ドストエフスキーを読むという体験だ。
 二十世紀末のぼくらの周囲にも、おかしな自意識を持った理解不能な人間というものは存在する。会社の上役や、若い女達や、新聞の三面に登場する犯罪者達のなかに。だが、彼や彼女は、たとえばポルフィーリイやスヴィドリガイロフに較べれば小物である。ソーニャよりは理解しやすいだろう。
 ドストエフスキーの世界を通過した後でも理解不能で恐ろしい人物など、そう何人もいるものではない。
 ドストエフスキーとはそのような作家なのであり、だから好きだとか嫌いだとか判断することさえできないのだ。おそろしく本質的な世界をあらわにしてみせた彼の小説の世界は、今も、人類全体の鏡として本のなかに閉じ込められているのだ。

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