特別著者インタビュー山川健一

Kenichi Yamakawa Interview
VOL.02相手のことがわかれば優しい気持ちになれるものだよ


「週刊"BE HAPPY !" 」の読者である"ダガー"さんという女性が、インタビュアーという形でメルマガお手伝いしたいというメールをくれた。そのインタビューが実現し、一部がメルマガに掲載された。これは、その全文である。シビアなこともスパッと聞いてくる、気持ちのいいインタビューで、普通の雑誌などにはないテイストが出ていると思う。ご一読ください。(山川健一)

vol.2
相手のことがわかれば優しい気持ちになれるものだよ

Yamakawa(以下Y):  おそくなって、ごめん。待った?
Question(以下Q):  こんにちは。よくわかりましたね。
Y :   だって、女の子ひとりのテーブルって、ここだけじゃん。
Q :   ほんとだ……。
Y :  今回は、どうもありがとう。でも、インタビューのボランティアっていうか、お手伝いって、奇抜なアイディアだよね。メール読んで驚いたけど、でも、ありがとう。
Q :   いえいえ。
Y :  あっ、コーヒーを(と、ウェイターの人に)。それで、原稿も起こしてくれるの?
Q :   はい。シロウトですけど。
Y :  大丈夫だよ。あ、テレコ、もう回ってるんじゃない。ヘンなことは言えないな。
Q :   以前、山川さんがFMでDJをやっているのを聞いてたんですけど……。
Y :  ああ、アルファロメオがスポンサードしていた番組だね。
Q :   西洋美術館へ行ったNHKのテレビも見て。テレビやラジオでの話し方と、まるで同じなんですね。
Y :  そりゃそうだよ。台本ある番組なんて、やったことないからさ。
Q :   じゃあ、そろそろ始めます。『ニュースキャスター』(幻冬舎)が評判になってますけど。
Y :  そうだね。
Q :   『ニュースキャスター』は、山川健一らしいと思いますか?
Y :  うーん、どういう意味?
Q :   っていうのは、山川さんは純文学系の作家だと思っていたんです。純文学というのは、読者を選びますよね? だからミステリーを書くようなエンターテイメント系の作家たちみたいな感じでメジャーでなくてもいいと思っていました。でも、今、大きな書店に行くと『ニュースキャスター』が平積みされているし、新聞広告にもでかでかとのり、テレビでまで紹介されていました。つまり、今まで山川健一の文学を知らないような読者がたくさん読んでいると思うんです。小説のテーマやタイトルなどにしても、そのあたりをねらったんですよね? はっきり言って、はじめは私もこの本は山川健一の初めてのエンターテイメントだと思いながら読んだんです。
Y :  おっ、一気にきたねえ。君ってさ、いくつ?
Q :   27ですけど。
Y :  純文学って死語だぜ。
Q :   そうですか。じゃあ、ジャンルで言うと、何系作家っていうんですか?
Y :  ぼくはぼくだよ。何系でもないよ。
Q :   あ、カッコつけちゃって。やっぱり山川健一だ!
Y :  ……よく言われるんだよね。キザだってさ。つまり、君が言いたいのは、ロックしてないってことなんじゃないの? 純文学でもエンターテイメントでもいいけど、山川健一はロックしてる、と。そういうイメージだったのに、今度の『ニュースキャスター』はそうじゃない、と。そういうことが言いたいんじゃないかな。
Q :   そうそう、そういうことです。……で、私的(わたしてき)な結論を言ってしまうと、私のような昔からの読者にとって、この本はやっぱり「山川健一らしい」本だったのですが、そのあたりはご本人にとってはどうなんでしょうか?
Y :  『ニュースキャスター』は、初めてのエンターテイメントではなくて、ぼくにとっては2作めの小説なんだと思ってるんだよ。
Q :   どういう意味ですか?
Y :  『安息の地』(幻冬舎)が、自分の第2のデビュー作だと思ってるんだよ。それまでにも数多くの小説を書いたけれど、自分としては持ってるカードを全部使いきっちゃった、という感じだったんだよね。だからリセットするというか、手持ちのカードを全とっかえして、新しい気持ちで小説を書いていきたいと思ったわけ。その最初の作品が『安息の地』で、次が『ニュースキャスター』。
Q :   ああ、でも、『ニュースキャスター』のほうが派手ですよね。
Y :  最近、生活が地味だからさ、派手なの書きたかったのかな(笑)。
Q :   それって冗談ですか?
Y :  よくわかったじゃん!
Q :   ……私が言いたかったのは、『ニュースキャスター』はモデル小説じゃないですか。あまりにもはっきりとモデルがわかる、という。あれ、久米宏さんですよね? もちろん『安息の地』にもモデルとなる事件があったわけですが、『ニュースキャスター』のほうは誰でも知っている人がモデルなわけで、でも山川健一の世界になっている。そこが不思議だと思ったのですが、そのへんはどうなんですか。
Y :  うーん、うまく答えられるかどうか自信はないけどさ、ロックな小説を書くことはぼくにとってはむしろ安全なことだったんだよね。別に『ロックス』みたいに生(なま)なロック小説に限らず……つまり、ロックという音楽は、ここにコーヒーカップがあるとして、その日に当たる場所だけを書く小説だと思うんだよ。陰の部分は、あえて見ない。ロックって、そういう音楽だからさ。ぼくは意志の問題として、人間の隠された欲望とかコンプレックスとか嫉妬する心の状態とか、そういうのは書きたくなかったんだよね。
Q :   つまり、それが山川健一的な世界?
Y :  たぶんね。
Q :   やっぱりね。
Y :  それで、『安息の地』と『ニュースキャスター』はぼくにとって新しい展開なわけだけど、これはロック的と呼ばれる世界の外側の世界に向けて、ぼくが右手を差し出して握手を求めた小説なんだよ。その、両者が出会う場所でも、もしも君が言うようにぼくの匂いがするのなら、うれしいよ。
Q :   あーん、キザだ、やっぱり!
Y :  そうかな?
Q :   『安息の地』を読んだときも思ったことなのですが、『ニュースキャスター』でもやっぱりそうだったので聞きたいと思ったことがあります。
Y :  キザにならないように答えるよ。
Q :   山川さんって、すごく強いイメージがあるんです。それはいろんな意味で強いというか……、精神的にもそうだし、たとえば実生活においても、バンドのリーダーでボーカルだったり、雑誌の編集長だったりするという。でも、ふたつの小説において、弱い者の心理描写がすごくリアリティがあると思うんです。私も読んでいて、そちらの方にシンパシィを感じました。なぜ、こんなに弱い者の気持ちがわかるんでしょうか?
Y :  君がいう強い人間って、ほんとうはどういう人間だと思う? たしかに、ぼくは強い人間だと思うよ。でも、力が強かったり、サバイバルに長けていたり、厚顔無恥だったりするわけじゃないでしょう。強い人間という言葉のいちばん正確な意味は、エゴが強いってことだと思うんだよね。そのエゴというものは、生まれ持ったものもあるだろうけれど、人間関係で決まってくるものだと思うんだ。ぼくは物心ついてから今日までの多様な人間関係のなかで、エゴの強い人間になっていったんだと思う。
Q :   つまり、エゴイストってこと?
Y :  そうだよ。エゴイストとして、今までの人生で多くのエゴの弱い人を傷つけてきたという、悔悟の気持ちがどこかにあるんだよね。白い羊たちのなかの1頭の黒い羊なんだ、という気持ちがいつもどこかにある。相手が男の人であろうが女の人であろうが、そんなふうに傷つけてきた人たちに謝りたい気持ちがどこかにあって、だからそんな彼らの気持ちもよくわかる気がするんだよね。
Q :   じゃあ、山川さんのなかには、一片の弱さもないのかな……。
Y :  ほんとうに強い人間なんて、どこにも存在しないのさ。もちろんぼくも、ほんとうは弱い人間で、でもそれを前提として、どうやってコンストラクティヴ(前向き・建設的)に生きるか模索するうちに、今のスタイルを身につけていったんだと思うけどね。
Q :   でも、エゴイストっていうのは、優しくないってことじゃないですよね? 私は、山川さんは優しい人だと思うから。
Y :  ぼくは優しいよ。っていうか、よくそう言われるよ。闘ったり相手を打ち負かしたり、そういうのが好きなわけじゃないんだよね。エゴというのはあくまでも内面的な問題なのであって、ぼくは素直な人が好きだし、自分も素直でいたいと思ってるんだよ。自分に素直になれれば、相手のこともよく理解できるようになるし、相手のことがわかれば優しい気持ちにもなれるものだよ。
Q :   なるほどねー。
Y :  だいじょうぶ、君は充分以上に素直みたいだから。
Q :   それって、単純ってこと?
Y :  シンプルでいられるにこしたことはないって。
Q :   じゃあ、次の質問です。iNovelのつづきはどうなるんですか?
Y :  それ、絶対に聞かれると思ったよ。次はオートバイ小説集なんだけど、今「ナチュラル・ライダーズ」というのを書いてるんだよね。ところが『ニュースキャスター』に予想以上に時間がかかっちゃって、終わってないんだよ。それを書き終えたら、刊行の準備に入りたいと思ってます。
Q :   『安息の地』が自分の第2のデビュー作だと思ってる、とさっきおっしゃってましたが、それがiNovelという名前の作品集を出すきっかけだったんですか。
Y :  直接的には、今までの作品が読みたいという、若い読者の人たちのリクエストに応えるためだったんだけど、内面的にはそうだね。今までの小説を作品集という形でまとめてしまえば、まったく新しい小説に挑む気になれるから。
Q :   iNovelは『ANGELS/水晶の夜』と『ROCKS/蜂の王様』の2冊が出てるわけですが、過去の自分の作品についてはどう思ってますか?
Y :  ……その質問には、答えたくないな。
Q :   えーっ、どうしてですか?
Y :  どうせまたキザだって言われるのがミエミエだからさ。
Q :   そのキザな台詞が聞きたいんじゃないですか、ファンは(笑)。
Y :  なーんか、複雑な心境だな。じゃあ正直に言うけど、校正やっててね、何カ所かで泣いたよ。
Q :   よかったあ、山川さん自身も自分の過去の作品が好きで!
Y :  まあ、『ニュースキャスター』は第2段階の2作めだと思ってるんだけど、これからも、かつての自分の作品を裏切らないような小説を書いていきたいと思ってるよ。
Q :   私は山川さんのストレートな恋愛小説が読みたいと思っているのですが、そういうものを書く予定はありませんか? だって、デビューの頃から山川さんの描く女性像ってずっと変わらないんですもん。あれはやっぱりご自身の趣味? ちょっと違ったタイプの女性がでてきてもいいかな、とも思うんですが(笑)。
Y :  それはさ、ぼくの責任じゃないんだよね。周りに、ああいう女の人しかいないんだよ。
Q :   えーっ、それはリアリティがないなあ。そんなにいい女の人ばっかりが周りにいらっしゃるんですか?
Y :  いい女? ぼくの小説に出てくる女って、いい女なわけ! ぼく以上にエゴイスティックで、ジコチュウで、男を冷たくあしらう女の人ばっかりじゃん。
Q :   だって『ニュースキャスター』の香奈子だって、いい女じゃないですか。 Y :  あれも、ジコチュウじゃん。
Q :   だって、ずっと主人公のことを想ってるんですよ。別れた後も。
Y :  そんなの、こっちにっとっては関係ないもんな。
Q :   女って、ほんとはもっと現実的だと思いますけど。でも香奈子にしても、愛に生きてるっていうか。
Y :  ……その件に関しては、今後もっと勉強したいと思います。
Q :   最近、ジャガーを買ったそうですが、自転車には乗っていないんですか? まあ、今は寒いですもんねぇ。
Y :  無理しないで乗ろうと思ってるよ。
Q :   じゃあ、最後の質問です。今、興味があることを教えてください。
Y :  『ファイナルファンタジー10』がいつ出るか、かな。
Q :   他にもあったら、いくつかあげて下さい。
Y :  次の小説のこと。
Q :   いつも、次のことを考えなきゃならないわけだから、やっぱり小説家ってたいへんですね。
Y :  だろう?
Q :   他には。
Y :  今、フェラーリ借りてるんだけど、フェラーリにも興味があるかな。
Q : ジャガーを買ったばかりなのに?
Y :  クルマぐらいいいじゃん!
Q :   じゃあ、この辺で。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
Y :  いやいや、こちらこそ。
Q : あ、もうひとつ。
Y :  なに?
Q:「文学メルマ!」の山川さんのプロフィールページで紹介してある本は、その場で買えるわけですよね。あのラインナップはご自身で選んだんですか。
Y :そうだよ。
Q :   特別に意味のある本なのでしょうか。『iNovel/山川健一作品集 Angels』と『iNovel/山川健一作品集 Rocks』は作品集なのでわかるんですけど。
Y :  そうだね。あの2冊の分厚い作品集は、今までのぼくのすべてだよ。作品集は7冊の予定だけれども、大切な作品はあの2冊に収まってしまっているからね。しかもあれは、インターネットの存在なしには刊行できなかった本でもあるから、選んだんだよ。
Q : 『iNovel/山川健一作品集 Angels』の「蜂の王様」の主人公は高見沢俊彦さんですが、今でもお付き合いはあるんですか?
Y :  深夜のメル友だよ。メール出すと、5分後とか10分後に返信をくれる。スタジオとか海外とか、コンサート会場の楽屋とかからさ。
Q : 『安息の地』と『ニュースキャスター』が今の山川さんということですね。
Y :そう、スタート地点みたいなものかな。ドストエフスキーだって40代になってから『罪と罰』にはじまる5大長編を書いているわけで、ぼくもこれからいい作品を書いていきたいと思ってるよ。
Q :   『不良少年の文学』が入っているのは?
Y :あれは、告白というか、文学ってものの設計図を見せようと思って書いた本なんだよね。「水晶の夜」や「さよならの挨拶を」の設計図でもあり、それ以上に世界の不良少年の文学の設計図なんだよね。あれは『ニュースキャスター』のように大部数を刷ったわけではないから、買えなかった人もいるんじゃないかと思ってさ。大学の文学部では教えない、生きた作家達の肖像を味わってほしいと思ってます。
Q : 『オーラが見える毎日』が入っているのが、正直に言うとちょっと違和感があったんですが。
Y :『安息の地』以前と以降では、ぼくは変わったと思うんだよね。そして、それ以上に世界ってものも変わったんだと思う。どう変わったかというと、リアルなものを見つめる時代から、神秘を受け容れる方向へ変化したんだよ。
Q :オーラとか?
Y :  そういうことだよ。オーラとか、宗教とか、目には見えないものだよね。結局さ、ぼくは『オーラが見える毎日』で書いたような神秘体験によって変わったのかもしれないと自分では思ってるんだよね。そういうことを書いてある本で、だから21世紀になった今、ぜひマジメな気持ちで読んでもらえたら、と思ってるんだ。
Q :じゃあ、追加取材もここまでということで、ありがとうございました。

(インタビュー・構成/ダガー・<<<週刊"BE HAPPY !" >>>より)