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俺は毎日、別の女とベッドを共にした。俺が犬の鎖で女の背中を打つので、彼女達は傷だらけになって帰って行った。女が上げる悦びの声が、俺には我慢ならなかったのだ。
信頼すべきものは何もなく、一切は馬鹿気ている。
医者は俺をパラノイアだと言った。そんなことぐらい、自分でも判っていたけれどね。昔の友達は、俺をもて余していた。女は俺の苦痛を理解しなかった。理解しないことによって、奴らは女であった。
奴らにいったい何が判るっていうんだ、俺自身が途方に暮れてるって時に……。何も必要としない。真に厳粛なのは、俺の肉体だけだ。
真に厳粛なのは、俺の骨だけだ。
ちくしょう、悪寒がする。もうすぐ夏だっていうのに、なぜ寒いんだろう。
そういえば俺はいつだって寒さを、肉体の(うち)裡側の悪寒を耐えていたような気がする。
俺の隣りには黒人女が眠っている。そいつの顔に唾を吐きかける。
ぺっ。
起きろ、雌豚。
昨日も、デスビュタル(憂欝症を和らげる薬)を飲んでから眠った。何錠飲んだのかも覚えていない。デスビュタル、睡眠薬、強心剤、肝臓の錠剤、精神安定薬。あらゆる錠剤が医者の手で用意され、俺はそれを愛用した。そしてヘロインとLSD。
数日前、女にウィスキーの空壜で頭を殴られた。奴は俺を殺す気だったのだ。血が流れて、乾くと髪が束になって固まった。彼女はなぜ俺を殴ったのだろう。
それにしても頭の傷が痛む。黒人女がのそのそと起き出す。でかい尻だなあ。俺はそいつをけとばしてやる。汚らわしい肉の塊。
服を脱ぎ捨てるように、この肉の体を脱ぎ去ることができるのなら……。
物たちが俺を見据えている。無表情に、無感動に。
俺が振り返ろうと(ひざまず)跪こうと、
常に黙り込んでいる物たち。
沈黙、それは至上の音楽に違いないだろう。
物質の世界。金属の悦楽。俺は恐怖した。(うずくま)踞った。コカインを吸った。女は俺を殺そうとした。バンドは公演を停止させられた。
彼らより、俺はドラッグがどんなものかってことはよく知っているよ。今じゃ、俺はのろのろとしか話せず、皆俺の言うことを聞くために、俺の唇に耳を寄せてくる始末だ。俺の体の中で何が起きたのか、奴らより俺のほうがよく知っているはずだ。
肉体の内側を黒く塗り潰すことを、
俺は望んだのだ。
俺の胸の中には言いようのない空洞が在って、それは俺をも飲み込んでしまいそうなのだ。俺はその空洞の周りを際限もなく音律で埋め尽くそうとした。
周りが<音>で埋め尽くされるにつれて、その空洞はますます鮮やかに照射されるのだ。俺はギターを捨てた。もう音楽なんて何の意味もなかったから。無際限に広がる胸の中の闇そのものが、俺の肉体だった。
扉を開くようには、
俺はもう未来を見なかった。
表情筋が痙攣(けいれん)する。夜なのかそれとも朝なのか、それすらもはっきりとしない。苦しい。だから薬をやるのだ。頽廃的で良くないかも知れない。だけど、俺は今死ぬことを何とも思っちゃいない。
今や死の自覚すらもが抽象されている。
本当の苦痛とはね、肉体的な痛覚のことを言うのだ。俺は今、何も感じない。つまり、もうどうでもいいのだ。刹那的でしかも刺激的だった俺の時間。俺はそいつを手放そうとは思っちゃいない。なぜ、かく在るのか? そんなめんどうなことは考えないよ。俺はこれでいいのだから。
ヨーロッパ人の不条理という概念から、俺は嘆息と悲劇臭を取り除いてしまいたいのだ。
故郷? そんなものありゃしないよ。
痛覚が脳髄を埋め尽くす。それはやがて体腔に広がり、俺そのものが一つの苦痛という点になる。俺は、点になりたかった。だけどその点は、激しく動いている。ローリング・ストーンズで俺がギターをかき鳴らした時、俺は一つの点で、しかも激しく生きていた。
今、俺は激しく耐えている。
俺は光の中の一点の影でありたいと願っていた。鏡の国へ迷い込んだアリスのように、光の充満する中で、だが俺には茫漠とした困惑があるだけだった。
俺は点になりたかったのだ。
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